好きなら好きなだけ遠いよ

ぶつくさと独り言

欲の話

ああ、原作なら読んだことありますよ。なんて舞台決定の発表当初「あさひなぐって何?」状態の知り合いに澄ました顔で話していたのだけれど、これは嘘でないにしろとても不確かなことだった。読んだのは中学生の頃だから少なくとも5年前の話だし、覚えているのは髪がツンとしてる元剣道部の女の子が出てきたことと、薙刀は脛も狙えるという二つだけだった。うろ覚えにも程があるし、たぶん読んだのは1巻だけ。だからといってまた読み返そうという気分にもならなくて、今なら無料で読めますよという優しい声にも反応せず、みんなが言う真春先輩って誰?一堂寧々って誰?状態だった。周囲では原作を読み込む人も増えてきて、この役にはこのメンバーが似合う、この役はこのメンバーにやってほしいとか盛り上がってきたけど私は置いてけぼり。配役が発表されても誰だかわからない名前の隣にメンバーの名前が書いてあるだけ。それでも関心が全くない訳でもなくて、ちゃっかりチケットは申し込んでいた。まだ履修登録始まってないし平日は避けるか、土曜にしようかなと5/27の昼公演ひとつだけ投げたら当たってね、行くことになったんだよ。原作に触れないままずるずると一週間前、つまり舞台初日まで来てしまって、流石に誰が誰だかわからないままではと読み始めた。國陵との練習試合までだから当然夏合宿は知らない訳で、なんで尼さーんという疑問を抱えたままに観劇した。

 

涙もろいので泣いた。飛鳥ちゃん以上に旭に適任である人物がいただろうか。彼女だけの旭だ、彼女が旭だ。旭ちゃんが持つ異様さがそのまま舞台の上に表出していてゾワッとした。

 

小さい頃、偉人の伝記を読むのが好きだった。学研から出てる漫画のね。町の図書館に行くと○○のひみつシリーズと併せて必ず借りていた。歴史も大好きで、予習するとポイントが貰えるから小学生ながら一回の授業のために30ページ書いて提出したこともあった。そのまま30p貰えて私のいた班はぶっちぎりの一位だった。そんなこともあって、人には為せばならない使命があり、大人になれば誰もが何者かになれるのだと子どもながらに思っていた。そしてどんなに苦しくたって変人扱いされたって、必ず唯一無二の理解者がいて、その人が助けてくれるって。だけど現実はそんな風にはできていないよね。わかっているけど、わかっているのに自分がそうでないことに不満を覚えているんだ。自意識過剰とか要求水準が高過ぎるとかナルシストとか分不相応とか言われるだろうし、自分でもそう思っているんだけど、私の精神年齢はキッズのままなの。ティーンじゃなくてキッズ、12歳以下ね、とか言いつつも実際は大人に半身を浸すいい年した19なんだけれども。旭ちゃんの欲ってこれと似たもののような感じかするんだよね。こどもの理想を粘土みたいに捏ねて丸めて出来上がった欲。現実とか能力とか才能はまるっきり無視した欲。私は頭の片隅にそういう思いがあるけど、口に出すのは恥ずかしいし、それを実現するために何かして笑われるのは怖いし嫌だって思ってる。だけど旭ちゃんは違う。どんなに現実を突きつけられたって、どんなに笑われたって、どんなに才能がないと言われたって、どんなに無理だってなじられたって、それがどうした私はこうなりたいんだ!とがむしゃらに理想に突き進む。

「くやしいしもどかしいし、恥ずかしいけど、だからってやめるわけにはいかないんです。私の心の中は、ものすごい野望でいっぱいなんですから。」

小さくて細くて鈍臭そうでダサめの眼鏡かけた大人しそうなこの女の子のどこにそんな野望がある、どこからそんな欲が湧いてくるんだと叫びたくなるほどの貪欲さ。私はこどもの理想に挫折した人間だけど、旭ちゃんはこどもの理想を叶える人間だ、今まさに叶えようとしている人間だ。こどもの理想は幼稚だってことじゃないよ、どこまでも上を見てそこに自分を連れて行こうとする高大かつ傲慢な欲。彼女を見ているとワクワクしてくるんだ。と同時にあんまり眩しいその姿に、胸の奥にチクリと鋭い痛みが走る。夏彦くん、夏彦くんの痛みはどうだったの。

 

欲。そう欲なんだよ。欲と聞くと、人は俗っぽくて矮小なものを想像する。できるだけ持たない方がよくて、見苦しいものだと。だけど、欲は人を高みに連れていく。でもそれは競争に身を置く人間についてだ。競争の中にいないのならどんな人間もその限りではない。以前なら競争と聞けばスポーツでも思い浮かべていたんだろうけれど、今はアイドルが真っ先に浮かぶ。彼女達の柔い心は外からの強い圧力に変形させられるけれども、それで強くなっていく。例外なしに。アイドルはみんなそうだ。抉られ滲む傷を耐え抜いて、欲は高次へと進むための最も有効な手段に変わっていく。みんな中井りかの貪欲さが好きだろう。あの人のことはよく知らないけど、気持ちいいくらい野心丸出しで、それに前のめり一直線の姿勢すごいよね。それでもガツガツし過ぎてるし、他者への想像力欠けてる気がするしちょっと苦手かななんて思っていたんだけど、メンバーからかなりインテリジェントな人だと評されているのを聞いてまた印象が変わったんだよな。私自身が学校の勉強全くできないマジもんの馬鹿なので、頭が良くて学で身を立てることも出来ただろうにアイドルでいる、いてくれる人にときめいちゃう。松村さんとか花奈さんとかね。

 

ドイツ村の鯉。飛鳥ちゃんはここまで素直に欲を出されると可愛いと笑っていた。みんなまるでアイドルに群がるオタクの姿だと揶揄していたけれど、私にはあの鯉の方がアイドルに思えてならなかった。どれだけ愛やお金を投げても彼女達はその全てを吸収して、大きくなっていく。鯉のようにせがむのではないけれど、もっと輝きたい選ばれたいとそれらをすぐに吸収していってしまう。彼女達の、アイドルの、旭ちゃんの欲は満たされることがあるのだろうか。どうなんだろうね。

 

ここらでアリーヴェデルチ